短歌人 2017年8月号  大仏蛍
戌の刻となりて暗ければ君は手をつないで渡る転害門(てがいもん)前
 
正倉院向かひの幼稚園の芝ものの見事にゐのししは掘る
 
大湯屋の手前の沢にあくがれてひかりて消ゆる大仏蛍
 
肌寒きゆゑか盛りを過ぎしゆゑか知らねどこれほどまでのはかなさ
 
人びとが見つめる沢の真後ろのひと本の草にひかりはうごく
 
片方がすぐに冷たくなる吾を君は何度も温め直す
 
産むことのかたち一つにあらざるを思へば二月堂に十六夜
 
                      勺 禰子(しゃく・ねこ)

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【2017/07/28 11:00】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年7月号  古来外来
絵に描いたやうに日に日に萌えてゆく黒焦げだつた若草山は

なぜ山をいつから山を焼くのかと思えば領地を争ふ僧侶

天平の人らの知らぬ芝が萌ゆ焼かれては萌え焼かれては萌ゆ

アドリブの牛よくしやべる境内に予祝充ちゆくお田植祭は

駆除される外来種にも和名あり和名をもつて追はれゆくもの

貴種流離譚の貴種たち帰化せずに漂泊をすることの幸ひ

外来の吾も棲みつく奈良のまちいかなる手段で追ひ払はれん

    大仏建立「一枝の草、一把の土」
奈良らしい景色とは何「一枝の草」を持ち寄る幻をみゆ

                         勺 禰子(しゃく・ねこ)
 
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【2017/06/27 15:24】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年6月号  未だはなやぐ
積み残すだけの日日積み残しまずは今年の桜を愛でる

役割を纏はぬままの日常はいつまでたつてもハレのままにて

入浴剤の香りで少しつながれてあはきあはき家族といふもの

おかへりと言ふとき未だはなやぎは吾にきざして君をむかへる

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)

気象台から


【2017/05/29 15:14】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年5月号  南都八景
リヤカーで押して担いで根のついた竹を運びぬ二月堂まで

南円堂前の燈籠らくがきも墨ゆゑ残ると君が指さす

プラスチックの芝生保護材あらはなり猿沢池の柳の下に

今はなき轟橋の敷石をいまだ観光気分で踏みぬ

越えずにはどこにもゆけぬ佐保川に日ごとふくらむ桜のつぼみ

しかせんべい知らぬ個体もありぬべし聖武天皇陵に住む鹿

鹿の毛並みも若草山も写真とは違ふ景色があるあたりまへ

少しづつ日常になる奈良のまち自転車にのり雲居坂のぼる

                       勺 禰子(しゃく・ねこ)

竹送り
【2017/04/28 11:17】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年4月号  宇和奈辺小奈辺
佐紀の地に前妻後妻もろともに仁徳なる人いまだ眠れず

陵墓参考地ふたつを割つて南端に瓦屋根つけて奈良基地はあり

稚拙な愛にあふれて「空が好き!」といふ戦闘機かがやく青きポスター

偽物の大極殿の上空にブルーインパルス描くハート型の雲

朝靄の大極殿の鮮やかな朱塗りはぶざま 荒野が恋し

                     勺 禰子(しゃく・ねこ)

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空が好き!?

【2017/03/31 01:50】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年3月号  追鶏祭(とりおひさい)
見えぬ鶏を追ふ所作三度繰り返す午前三時の妖しき境内
 
さまざまな罪を塗りつけられながら生きてきた鶏はそれも知らずに
 
禁忌とは渇望をさす行為ゆゑ追ひ払はれることのすがしさ
 
息長帯比売命の怒りに流されし鶏がひそかに今を息衝く
 
養鶏を奨励したといふ宮司大正デモクラシーの曙光浴びつつ
 
「たつた揚げプロジェクト」の幟はためいて竜田川に放たれし鶏をおもほゆ
 
                         勺 禰子(しゃく・ねこ)

2017往馬大社追鶏祭s

2017往馬大社追鶏祭2s
【2017/02/27 15:34】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
短歌人 2017年2月号  式年造替
八年で四度目となる引越しを終へて思ほゆ「引き越す」の意味

奈良がすき奈良はきらひと言へぬままなんとなく少しづつ慣れるといふこと

毀しかた積み上げかたを受け継ぎて春日式年造替終る

忘るることなけれど許されることもなしと思へど、二十年なり

家に場所に執着のなきまま生きてそれでも辿り着くことがある

しあはせにくらしたいなぞとつい思ふ佐保のお山を眼前にして

                         勺 禰子(しゃく・ねこ)

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【2017/01/28 00:05】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2017年1月号  題詠・欠超相当移及厳製
置きざりの母性おもへば暁闇に月の欠けらは仕舞はれてをり (欠)

「超訳」といふ号令に変質をしてゆく言葉のちからや匂ひ (超)

防衛相当惑顔の涙目の底なし沼のやうな微笑み (相当)

充たされてゆくのはこころでもからだでもないなにか口移されて (移)

及ばぬことに及ばなくてもいいことを知りゆく四十五歳の秋は (及)

威厳尊厳厳格厳密 厳の字にはつか憩ひのひとときよあれ (厳)

謹製といふとき兆すナルシズム込められしものにおののきながら (製)

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)

今年も一年、ありがとうございました。
【2016/12/28 00:35】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年12月号  闘争心
大阪の素顔は憂ひ、笑みもせず笑はせもせぬ曇り日のごと

吾の知らぬ吾の血管みいだせる一筋縞蚊と揺るる地下鉄

トンネルに入りてしばらく斜めから斜めへ雨はとめどなく湧く

何か罰のやうなるものを受けんとしゲリラ豪雨とともに歩みぬ

終電を出でてきざはしのぼるとき闘争心ははつか芽生える

かみさぶる生駒のやまの般若窟 有象無象を腹に埋めつつ

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/11/30 02:32】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
対決ではなく対話を促す歌論―近藤芳美『新しき短歌の規定』
短歌人11月号特集「いま読み直す短歌評論」の中で、
近藤芳美の『新しき短歌の規定』について書かせていただきました。
おそらく近藤芳美を「近藤くん」と呼んだ、はじめての?恐れを知らない論考ですが、
極めて真面目に書いたつもりです。

お読みいただけましたら幸いです。
PDFはこちら

短歌人11月号目次2

短歌人11月号目次1

短歌人11月号評論

【2016/10/28 14:54】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年11月号  新しき世界
並びゆけば肩も触れ合ふ細き細きジャンジャン横丁をかの日あゆめり

   発祥と言はれしも

千成屋珈琲店のミックスジュース飲んだかどうかの記憶おぼろに

奥の席で話し込みしをいつしかに店のおばちやんが相槌ち打てり

   ひそと閉店

意外にも珈琲は洗練されて千成屋珈琲店は雑味なき店

ニュー・ワールドへたどり着くため冬の寒い雨の新世界をきみとあゆめり

見下ろせば瓦屋根多きこの街の初代通天閣の絢爛

恵美須東といふ町名はありながら常にひらけてゆく新世界
 
                      勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/10/28 14:32】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年10月号  日陰鬘
美味しいものが食べたいといふ吾のため思ひ出される小料理屋あり

箸置きは天鈿女が襷掛けしたといふヒカゲノカヅラ青青

金魚たちが産卵するといふ多年草に鮪を食べた箸置く

大和(やまと)ではキツネノタスキと呼ぶといふ繊毛のやうな生命体を

天鈿女が狐であるといふ仮説妄想族の吾は愉しむ

十津川の果無峠の入口のうねるキツネノタスキおもほゆ

奈良のまちを君とゆくよる日常とハレのあはひを未ださまよひ

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)

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【2016/09/28 14:38】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年9月号  後の祭り
祖母義母の参政権なき二十代の日々を思へり梅雨の晴れ間に

蝉の声はふぃーわを願ふ叫びだと少女の声は摩文仁にとほる

   堺筋線
地下ホームの昏さ極まる阪急のマルーン色の車体入るとき

逃亡し武装し森で闘つた米国奴隷もマルーンだと知る

開票と共に授かるカタルシス後祭りめく選挙特番

空梅雨(からつゆ)はただの夏空 ほろびゆく生物相の先触れとして

                     勺 禰子(しゃく・ねこ)

せいふぁーうたき
摩文仁の北東、斎場御嶽(せいふぁうたき)から久高島をのぞむ

【2016/08/31 22:55】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年8月号  餅飯殿
来るたびに歓迎されぬ心地して歩くならまち今年何度め

いつまでも余所者として居りたきは吾かも知れず顔馴染み増え

几帳面に展示ガラスの指紋消す白き作務衣の職員たちは

朝露の奥田愛基氏のおもかげの畢婆迦羅(ひばから)像の細きゆびさき

こだわりの未成熟さを思ふとき入江泰𠮷の自署「吉(サムライヨシ)」

黴臭き編集室に楠主任は「タイキチのキチはツチヨシです!」

もちいどのセンター街を吾はゆくいつしか地元の人の速度で

                     勺 禰子(しゃく・ねこ)

※写真は4月に行われた短歌人子(ね)の会吟行合宿の詠草

※数年前に奈良県立美術館で會津八一展をしていたときに、展示されていた入江泰𠮷からの封筒に、しっかりと上の部分が「士(サムライ)」になった「吉」が書かれていて脱力したことがありました。出版業界その他では「土(ツチ、𠮷野家と同じですね)」+「口」が常識なので、「士」+「口」の印刷物を見たりすると「間違ってるやん!」となるのですが、なんとまあ、ご本人寛容~wみたいな、こだわりって、そこじゃないよね、的な私にとっては衝撃的な出来事でした。

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【2016/07/27 22:25】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
第42回短歌人評論・エッセイ賞
2016年7月号

昨秋の短歌人10月号に掲載していただいた
「荒鷲の雛 晶子が詠んだ戦争短歌」で、
このたび第42回短歌人評論・エッセイ賞を戴きました。
 
メールやお電話、お手紙をくださった方々、
改めましてありがとうございます。
 
与謝野晶子の残したものはとてつもなく膨大で多岐で、
これからどれくらい何を見つけてゆけるのかも覚束ないですが、
堺に生まれ、なぜか短歌をひそひそ詠み始め、
その後も細々と続けていることも何かのご縁
と思わせていただくことにして、
今後もとにかく精進させていただきます。

該当作を下記タイトルのリンク先にアップしております。
お時間のあるときにお読みいただけましたら幸いです。
【「荒鷲の雛」晶子が詠んだ戦争短歌
  ―昭和7年~13年「読売新聞婦人短歌」を中心に】


※発表ページでは2015年11月号掲載とありますが、正しくは10月号です。

同時期に発表される会員対象の「高瀬賞」(新人賞)では、
短歌人内の勉強会「子の会(ねのかい)」で一緒の黒崎聡美さんが、
評論・エッセイ賞では私と同時に、短歌人関西歌会で一緒の角山諭さんが、
それぞれ受賞されて、これもとってもうれしいことです^^

◆受賞のことば
私の生まれた堺は今、何度目かの与謝野晶子ブームです。
ですが昭和初期頃は「堺の恥」と、
与謝野の「よ」を口にするのも憚られたと聞きます。
無責任な排他と無批判な顕彰とは似ています。
ようやく晶子と向き合える手がかりを得た題材で賞を戴くことになり、
短歌人と資料発掘に尽力された堺の諸先輩に心から感謝いたします。
勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/07/02 20:12】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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