歩行-第七官界の入り口-

おもかげをわすれかねつつ
こころかなしきときは
ひとりあゆみて
おもひを野に捨てよ

おもかげをわすれかねつつ
こころくるしきときは
風とともにあゆみて
おもかげを風にあたへよ

尾崎翠 『歩行』冒頭より

-----
『第七官界彷徨』という不思議な作品を残した尾崎翠は、
私が生まれる一ヶ月と3日前にひっそりと亡くなったらしい。

主人公の小野町子は、兄の小野一助・小野二助、いとこの佐田三五朗との秋から冬の共同生活の中で、炊事係をしながら人知れず勉強の目的を抱いていた。

「私はひとつ、人間の第七官にひびくような詩をかいてやりましょう。そして部厚なノオトが一冊たまった時には、ああ、そのときには、細かい字でいっぱいの詩の詰まったこのノオトを書留小包につくり、誰かいちばん第七官の発達した先生のところに郵便で送ろう」

でも、「これはなかなか迷いの多い仕事で、骨の折れた仕事なので、私の詩のノオトは絶えず空白がちであった」。

一助は「分裂心理病院」の医師でドッペルゲンガーを研究している。
二助は「蘚の恋愛」の卒業論文のため毎晩土鍋で肥やしを煮込んでいる。
三五朗は今年も音楽学校を受験するために音程の狂ったピアノと一緒にこの家にやってきた。
・・・なんだか一見、少女漫画の登場人物風なこの人たちの、静かで烈しい日常を、
尾崎翠は淡々といとおしみながら紡ぎだす。
彼女自身がドッペルゲンガーに悩まされ、
文学界で活躍していた若いころ東京から連れ戻されたあとはひっそりと鳥取で甥姪の世話をするおばちゃんとして暮らしていたことを思うとき、
人と風、人と蘚 の垣根は低く、第七官の入り口は案外近くにひっそりと用意されているのかな、と思う。

【2007/07/15 14:51】 | 日々雑記 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<短歌 | ホーム | 魔道>>
コメント
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
→http://chipoo.blog84.fc2.com/tb.php/86-af015c42
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |