短歌人 2016年12月号  闘争心
大阪の素顔は憂ひ、笑みもせず笑はせもせぬ曇り日のごと

吾の知らぬ吾の血管みいだせる一筋縞蚊と揺るる地下鉄

トンネルに入りてしばらく斜めから斜めへ雨はとめどなく湧く

何か罰のやうなるものを受けんとしゲリラ豪雨とともに歩みぬ

終電を出でてきざはしのぼるとき闘争心ははつか芽生える

かみさぶる生駒のやまの般若窟 有象無象を腹に埋めつつ

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/11/30 02:32】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
対決ではなく対話を促す歌論―近藤芳美『新しき短歌の規定』
短歌人11月号特集「いま読み直す短歌評論」の中で、
近藤芳美の『新しき短歌の規定』について書かせていただきました。
おそらく近藤芳美を「近藤くん」と呼んだ、はじめての?恐れを知らない論考ですが、
極めて真面目に書いたつもりです。

お読みいただけましたら幸いです。
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短歌人11月号目次2

短歌人11月号目次1

短歌人11月号評論

【2016/10/28 14:54】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年11月号  新しき世界
並びゆけば肩も触れ合ふ細き細きジャンジャン横丁をかの日あゆめり

   発祥と言はれしも

千成屋珈琲店のミックスジュース飲んだかどうかの記憶おぼろに

奥の席で話し込みしをいつしかに店のおばちやんが相槌ち打てり

   ひそと閉店

意外にも珈琲は洗練されて千成屋珈琲店は雑味なき店

ニュー・ワールドへたどり着くため冬の寒い雨の新世界をきみとあゆめり

見下ろせば瓦屋根多きこの街の初代通天閣の絢爛

恵美須東といふ町名はありながら常にひらけてゆく新世界
 
                      勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/10/28 14:32】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年10月号  日陰鬘
美味しいものが食べたいといふ吾のため思ひ出される小料理屋あり

箸置きは天鈿女が襷掛けしたといふヒカゲノカヅラ青青

金魚たちが産卵するといふ多年草に鮪を食べた箸置く

大和(やまと)ではキツネノタスキと呼ぶといふ繊毛のやうな生命体を

天鈿女が狐であるといふ仮説妄想族の吾は愉しむ

十津川の果無峠の入口のうねるキツネノタスキおもほゆ

奈良のまちを君とゆくよる日常とハレのあはひを未ださまよひ

                      勺 禰子(しゃく・ねこ)

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【2016/09/28 14:38】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年9月号  後の祭り
祖母義母の参政権なき二十代の日々を思へり梅雨の晴れ間に

蝉の声はふぃーわを願ふ叫びだと少女の声は摩文仁にとほる

   堺筋線
地下ホームの昏さ極まる阪急のマルーン色の車体入るとき

逃亡し武装し森で闘つた米国奴隷もマルーンだと知る

開票と共に授かるカタルシス後祭りめく選挙特番

空梅雨(からつゆ)はただの夏空 ほろびゆく生物相の先触れとして

                     勺 禰子(しゃく・ねこ)

せいふぁーうたき
摩文仁の北東、斎場御嶽(せいふぁうたき)から久高島をのぞむ

【2016/08/31 22:55】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年8月号  餅飯殿
来るたびに歓迎されぬ心地して歩くならまち今年何度め

いつまでも余所者として居りたきは吾かも知れず顔馴染み増え

几帳面に展示ガラスの指紋消す白き作務衣の職員たちは

朝露の奥田愛基氏のおもかげの畢婆迦羅(ひばから)像の細きゆびさき

こだわりの未成熟さを思ふとき入江泰𠮷の自署「吉(サムライヨシ)」

黴臭き編集室に楠主任は「タイキチのキチはツチヨシです!」

もちいどのセンター街を吾はゆくいつしか地元の人の速度で

                     勺 禰子(しゃく・ねこ)

※写真は4月に行われた短歌人子(ね)の会吟行合宿の詠草

※数年前に奈良県立美術館で會津八一展をしていたときに、展示されていた入江泰𠮷からの封筒に、しっかりと上の部分が「士(サムライ)」になった「吉」が書かれていて脱力したことがありました。出版業界その他では「土(ツチ、𠮷野家と同じですね)」+「口」が常識なので、「士」+「口」の印刷物を見たりすると「間違ってるやん!」となるのですが、なんとまあ、ご本人寛容~wみたいな、こだわりって、そこじゃないよね、的な私にとっては衝撃的な出来事でした。

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【2016/07/27 22:25】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第42回短歌人評論・エッセイ賞
2016年7月号

昨秋の短歌人10月号に掲載していただいた
「荒鷲の雛 晶子が詠んだ戦争短歌」で、
このたび第42回短歌人評論・エッセイ賞を戴きました。
 
メールやお電話、お手紙をくださった方々、
改めましてありがとうございます。
 
与謝野晶子の残したものはとてつもなく膨大で多岐で、
これからどれくらい何を見つけてゆけるのかも覚束ないですが、
堺に生まれ、なぜか短歌をひそひそ詠み始め、
その後も細々と続けていることも何かのご縁
と思わせていただくことにして、
今後もとにかく精進させていただきます。

該当作を下記タイトルのリンク先にアップしております。
お時間のあるときにお読みいただけましたら幸いです。
【「荒鷲の雛」晶子が詠んだ戦争短歌
  ―昭和7年~13年「読売新聞婦人短歌」を中心に】


※発表ページでは2015年11月号掲載とありますが、正しくは10月号です。

同時期に発表される会員対象の「高瀬賞」(新人賞)では、
短歌人内の勉強会「子の会(ねのかい)」で一緒の黒崎聡美さんが、
評論・エッセイ賞では私と同時に、短歌人関西歌会で一緒の角山諭さんが、
それぞれ受賞されて、これもとってもうれしいことです^^

◆受賞のことば
私の生まれた堺は今、何度目かの与謝野晶子ブームです。
ですが昭和初期頃は「堺の恥」と、
与謝野の「よ」を口にするのも憚られたと聞きます。
無責任な排他と無批判な顕彰とは似ています。
ようやく晶子と向き合える手がかりを得た題材で賞を戴くことになり、
短歌人と資料発掘に尽力された堺の諸先輩に心から感謝いたします。
勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/07/02 20:12】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年7月号  壬生大念仏狂言
濃藍の袖が五月の風はらむ楠の葉擦れは体内に鳴る

嵯峨野線の音も救急車の音も加へて進む「炮烙割」は

煙立て落ちては割れる炮烙に生れる厄除開運とは何

悪者の炮烙売りの名が残り鞨鼓(かっこ)売り二度の不覚の途上

清姫の出でて俄かに掻き曇る四条坊城南入ル空

躯体よき清姫が舞ふ、舞ふうちに浄き笛の音妖しくなりぬ

仇討ちのどこか喜劇と似てるさま曽我兄弟にも別の道あり
【2016/07/02 19:50】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年6月号  聞き損ねしいくつか

   昨春の秩父吟行合宿

連山と聞きおよびしが前触れもなく目に痛々しき武甲山


降りたちてのち疼きだす刀疵 異形の山に滲む血の色


   例年買出し係にて

見損ねし羊山公園の芝桜、聞き損ねし田村さんの蘊蓄


   年二、三回、八年の知遇を得て

小池さん以外の話はほぼ初耳「俺のカミさんカッコイイんだよ」


「気を付けて帰んな、それぢや一月な」金沢駅前夏の盛りに


   今春の奈良吟行合宿出席一覧

十二月二十七日九時二十六分付けメール「田村さん(保留)」


聞けず仕舞の秩父の人の感じかた田村さん教へてよ武甲山のこと


武甲山 

【2016/06/01 01:39】 | 日々雑記 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年5月号  即詠「惑星」ほか
追悼の式にそぐはぬさざれ石あの日流されし苔石おもふ

舌足らずのをとこの騙るフッコウやヨリソフココロは余りに軽く

奪はれた場所への気持ちと「この家で死にたい」気持ちを同じと思へず

執ねく場所をおもふ気持ちは吾に欠けおもふ人らに寄り添へずをり

血縁のうすき幸ひ、生きてゐるといふほか互ひにできることなく

惑星はひそかに距離をちぢめつつ今朝目醒めたら背に乗つてゐた

                 勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/04/28 12:22】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年4月号  音がゆれる
音がゆれる

ことば生む手だてはいつもキーボード子音母音を縫ひあはせつつ

シャットダウンせぬまま寝ぬる夜の居間にメール降り積む気配はみちて

鉾流神事のみそぎ済む川に覆へぬものが映しだされる

湿度低き初夏の川辺に紙ふぶき踏みしだかれぬままひかりをり

気がつけば階(きざはし)のうへに並びゐて青磁梅瓶(めいぴん)の前に語りぬ

そのむかし千三百度の熱を持ち焼かれしものが並ぶ涼しさ

うつそみの獅子の歯音に祓はれて悪魔はひそむ水都の底ひ

気がつけばといふは言葉のあやである 歩みを止める意志はなかつた

大川の水のちからを受けとめて橋には橋のうごきありつつ

夕照に川面きらめきそのうへの天神橋が消える束の間

満月はあるべきやうにみちみちて時機をうかがふことなどしない

東から君が見上げし満月のひかりに撫で上げられし快楽

欠けてゆく月の放てる音を聴き祓はれしものら峠に向かふ

キーボードに引き裂かれゐし子音母音なつかしみつつ君の名を呼ぶ

ときどきは峠で耳を澄ますこと月に射されたままのからだで

勺 禰子(しゃく・ねこ)

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【2016/03/29 22:43】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年3月号  稲蔵道
虫食い柄

天井の虫喰ひ柄から歌湧きてまた消えてゆく歯科治療室

歌一首詠めぬままにてかにかくも郵便局に向かひて歩む

そのかみの稲蔵道を歩みつつふと兆しくるいつか生きた世

嗚呼つひに吾は着きたり詠草を書き込めぬままの葉書を蔵し

いういう窓口のほとりに暖をもらひつつ一首のために足掻いてゐたり

年賀状特設ポストに初春の挨拶充ちては回収されて

言葉だけ五七五のリズム持ち歌ごころいまだ降りてこぬまま

本局を出でて真暗きかへりみち追はれるままの年が暮れゆく

勺 禰子(しゃく・ねこ)

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※稲蔵と稲倉は地元の人も混同していたようですが、現在残っている神社の名前から「稲蔵」としました。
【2016/02/29 01:52】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年2月号  えつきやん
今はなきバス停前に奥行きのみじかき宮口商店ありき

町にたつたひとつの店は菓子並べうどんも食はすえつきやんの店

まだ蕎麦も葱も苦手な四歳の吾は食むえつきやんの葱抜きうどん

おぼろ昆布ほどよくとけてえつきやんの岡持ちで届く年越しうどん

子どもさへ不審に思ふ豪華さのえつきやん新築レンガの家は

だんじりの初日夕刻えつきやんは駄菓子しこたま吾に与へり

だんじりの終はりしのちに「よにげ」なる言葉を知りてえつきやんを見ず

えつきやんの畑の畝は均されて五軒の小さき家が建ちたり

                        勺 禰子(しゃく・ねこ)
【2016/01/28 02:13】 | 日々雑記 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2016年1月号  ふれる
ああ猫に触れ続けたしけものたちに毛がある至福に溺れながら

心よりからだは素直からだよりさらに素直に毛髪はあり

撫でられるためだけにあるもの数へ極まれるスマートフォンの液晶

「裏まるごと起毛であつたかマジックパンツ」の注文番号六桁を打つ

露出して生きてゆくのみ指先は世界に触れ続ける鈍さもて

面と線の違ひを思ふ夕まぐれ幼き吾に天使の輪あり

けものとは言ひがたかりき和毛さへいつしか薄れいつしかおとな

触れがたき奥処に育ちはつか吾を撫でては剃られてゆく君のひげ

                  勺 禰子(しゃく・ねこ)

【2015/12/27 15:37】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
短歌人 2015年12月号  父のくるぶし
  アイビールック
丈短きズボンの裾が吾に見せし父のくるぶし幼き冬に

朝なさな靴下留めは巻きにけり若かりし父のふくらはぎ二つ

手術日は能登へ仕事と云ふ吾に「エエ足あつたら買うてきてくれ」

翌日に覗けば朝からまだ髭を剃らぬままでと父は恥ぢゐる

四日前黒く冷たき右足をさすりし場所に風が抜けゆく

半時間かけ食み十五分かけ歯を磨き二十分かけて髭剃り終へる

「ちやんと詠んでゐるんか」と問はれ首を振り「それはアカンな」と叱られてをり

肩車されながら見たゾウの春子も父の右足も吾は詠みたし

勺 禰子(しゃく・ねこ)

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※五首目、改作しました。
【2015/11/27 23:31】 | 短歌人誌 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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